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東京高等裁判所 平成8年(行ケ)18号 判決 1998年9月10日

静岡県引佐郡細江町気賀3329番地

原告

白柳伊佐雄

静岡県浜松市吉野東町275番地

原告

有限会社大和製作所

代表者代表取締役

匂坂英男

大阪府松原市丹南1丁目343番1号

被告

富田工業株式会社

代表者代表取締役

富田充

訴訟代理人弁護士

中島敏

同弁理士

井沢洵

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第1  当事者の求めた裁判

1  請求の趣旨

(1)  特許庁が平成2年審判第3609号事件について平成7年12月18日にした審決を取り消す。

(2)  訴訟費用は被告の負担とする。

2  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨

第2  請求の原因

1  特許庁における手続の経緯

原告らは、発明の名称を「折畳みふとん干し具」とする発明についての特許権者である(出願人は、昭和51年5月14日に実用新案登録出願(昭和51年実用新案登録願第62161号)をし、昭和54年3月2日に特許出願(昭和54年特許願第24735号)に変更し、昭和56年1月29日の出願公告(特公昭56-4275号)を経て、同年12月25日に特許1078116号として設定登録を受けたものである。以下「本件特許」といい、その発明を「本件発明」という。)ところ、被告は、平成2年3月9日、原告らを被請求人として本件特許の無効の審判を請求し、同年審判第3609号として審理された。原告らは、その間、訂正審判による本件発明の明細書の訂正を経たものの(平成5年審判第22785号。平成6年11月24日の請求公告(特許審判請求公告第798号)、平成7年7月19日の確定登録)、平成7年12月18日、「特許1078116号発明の特許を無効とする。」との審決を受け、平成8年1月5日にその謄本の送達を受けた。

2  本件発明の特許請求の範囲

本件明細書中の特許請求の範囲請求項1の記載は、次のとおりである。

「数本の管材を連結金具によって、少くとも上下2個所において互に連結して主柱を構成し、上側連結金具の上方及び下側連結金具の下方に比較的短小(「短少」とあるが、「短小」の誤記と認める。)の心金を突設し、その心金に略C形の管材製枠体の端部を回動自在に嵌合して組立てるものにおいて、略C形の管材製枠体の端部間に形成される開口部長さを前記上側連結金具の上面から下側連結金具の下面に至る距離より狭小に形成してなる折畳みふとん干し具。」

3  審決の理由

審決の理由は、別添審決書の理由の写し記載のとおりであり、本件発明は、その出願前にタイヨー産業株式会社(以下「タイヨー産業」という。)の工場において公然実施されたT-4型ふとん干し具に基づいて当業者が容易に発明することができたものであり、本件特許は、特許法29条2項の規定に違反してなされたものであるから、同法123条1項の規定により無効であるとした。

4  審決の取消事由

(1)  審決の理由【1】(当事者の求めた審判)、【2】(手続の経緯及び本件特許発明の要旨)、【3】(特許無効理由通知の概要)、【5】(対比)は認める。

また、【6】のうち、本件発明とT-4型ふとん干し具の相違点は、審決記載のとおり当業者が容易になし得る設計的事項であり、本件発明の効果は、審決記載のとおり当業者が予測し得る程度のもので、格別のものとはいえないことは認める。

(2)  審決は、以下のとおり、T-4型ふとん干し具が本件発明の出願前に公然実施された事実もその証明もないのに、これが出願前に公然実施されたと誤認し、その結果、本件発明は、当業者が容易に発明することができたものと判断したものであって、違法であるから、取消しを免れない。

(3)  T-4型ふとん干し具が本件発明の出願前に公然実施された事実はない。

訴外岩本康男(以下「岩本」という。)は、当初から本件発明の構成要件を具備したふとん干し具を製作していたわけではなく、原告の当初の出願(昭和51年実用新案登録願第62161号)の後にされた設計変更によって本件発明の構成要件を具備するに至ったものである。

昭和54年3月29日発行のディノス誌(甲第3号証)には、タイヨー産業製造の中抜きしていない枠体のT-4型ふとん干し具(従来製品)が掲載されている。中抜きしている枠体のふとん干し具(本件特許製品)は、中抜きしていない枠体のT-4型ふとん干し具に比べて軽量、かつ、省資材の改良品であって、昭和54年3月29日の時点では、タイヨー産業は、中抜きしているT-4型ふとん干し具を販売していなかったはずである。

また、審決がT-4型ふとん干し具を公然実施していたと認定する静岡市西島1066番地及び同市中島町2842番地の1には、実施を可能にするような工場はなく、公然実施できたか疑わしい。

(4)  T-4型ふとん干し具が本件発明の出願前に公然実施されたという証明はない。

(イ) 岩本は、T-4型ふとん干し具の製造に不可欠な図面の存在について曖昧な証言に終始しており、かつ、図面の提出を拒んでいたから、岩本の証言は、信用することができない。

(ロ) タイヨー産業のふとん干し新製品発売御案内(甲第15号証)は、同社が工場を移転してわずか6日後である昭和51年4月21日付のもので、得意先への最重要事項である会社の住所変更に触れておらず、不自然であり、後日作成されたものと推測される。

(ハ) ふとん干しカタログ(甲第17号証)についても、カタログ全体が多色刷りであるのに、N-3型、T-4型ふとん干し具は単色刷りとなっているなど不自然なところが多く、後日作成されたものと推測される。

第3  請求の原因に対する認否及び被告の反論

1  請求の原因1ないし3は認める。

2  審決の認定判断はすべて正当であって、原告ら主張の審決取消事由は、いずれも理由がない。

3  被告の反論

(1)  岩本を代表者とするタイヨー産業は、昭和51年3月ないし4月以降、審決にいうT-4型ふとん干し具を公然実施していたものである。

原告らが主張する中抜きしていない枠体のふとん干し具は、通販会社の注文に基づいて、中抜きしている枠体のT-4型ふとん干し具とは別個の構想に基づいて製造販売されたものであり、中抜きしていない枠体のふとん干し具の存在をもって、中抜きしている枠体のT-4型ふとん干し具が実施されていたことを否定する根拠にはなりえない。

タイヨー産業は、昭和50年8月29日に設立して以来、昭和51年4月14日まで静岡市西島1066番地に本店兼工場を置き、昭和51年4月15日から昭和58年1月30日まで静岡市中島2842番地の1に本店兼工場を置き、昭和58年1月31日に静岡市中島769番地の1に移転したのであり、このことは証拠上明白である。

(2)  審決にいうT-4型ふとん干し具が本件発明の出願前に公然実施されたという証明がない旨の原告らの主張は争う。

第4  証拠

証拠関係は、本件記録中の書証目録に記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

第1  請求の原因1(特許庁における手続の経緯)、同2(本件発明の特許請求の範囲)、同3(審決の理由)の各事実は、当事者間に争いがない。

第2  原告ら主張の取消事由について判断する。

1  証拠(各項目ごとに括弧内に摘示する。)によれば、次の事実を認めることができる。

(1)  岩本は、後記認定のとおり、昭和50年8月29日にタイヨー産業を設立するまで、岩本の親族が経営する岩本プレス工業株式会社に勤務していたものであるが、昭和46年12月18日、2個の連結金具と3個の略四辺形の枠体で構成されるふとん干し器の意匠登録出願をし、昭和47年12月27日に設定登録(意匠登録360639号)を受けた。その具体的構成は、3本の長いパイプを上連結金具と下連結器具とにより上下2個所において互いに連結して主柱部分を構成し、上側連結金具の上面及び下側連結金具の下面に比較的短小のパイプ端部を突設し、このパイプ端部と短パイプとに開口部を有する略四辺形の枠になるように開口部を嵌め込んで回動自在に係合させてなるものであった(別紙図面(1)参照)。岩本は、昭和47年4月14日、上記ふとん干し器の略四辺形の枠体の形状を若干変えたものを、上記登録意匠の類似意匠として意匠登録出願をし、昭和49年4月8日に設定登録(意匠登録360639号の類似1)を受けた(別紙図面(2))。(甲第2号証、乙第11号証、乙第13号証、乙第14号証の2、3、乙第25号証)

(2)  岩本プレス工業株式会社は、昭和47年頃から、上記意匠登録360639号の類似1の実施品であるふとん干し器の製造販売を開始した。(甲第2号証、乙第13号証)

(3)  その後、岩本は、岩本プレス工業株式会社から独立して、昭和50年8月29日、タイヨー産業を設立するとともに、同社の代表取締役に就任し、静岡市西島1066番地に本店兼工場を置いて、意匠登録360639号の類似1の実施品であるふとん干し器(T-3型ふとん干し具)の製造販売の事業を開始した。(乙第1号証の1、乙第3号証の1、2、乙第13号証、乙第15号証、乙第25号証)

(4)  岩本は、昭和50年12月6日、上記ふとん干し具と基本的な構造は変わらず、枠体の数を3個から4個に増やしたふとん干し具を、前記登録360639号の類似意匠として意匠登録出願した(別紙図面(3)参照)。なお、岩本は、昭和53年3月7日、特許庁から、上記出願の意匠は昭和49年8月19日出願の意願昭49-28704号の意匠と類似であるとの理由で、拒絶理由通知を受けた。(甲第19号証、乙第8号証の1、2)

(5)  タイヨー産業は、同年4月21日付で、T-4型と称する、枠体の数を4個に増やしたふとん干し具を新製品として宣伝する「ふとん干し新製品発売案内」と題する書面を顧客に送付し、同年5月10日にも、同様の書面を顧客に送付した。上記書面のいずれにも、T-4型のふとん干し具について、「上・下パイプ:鋼管メラミン塗装仕上げ、タテパイプ:塩ビ被膜鋼管」と記載していた。(乙第10号証の1、2、乙第25号証)

(6)  T-4型ふとん干し具の具体的構成は、2本の長いパイプを上連結金具と下連結器具とにより上下2個所において互いに連結して主柱部分を構成し、上側連結金具の上面及び下側連結金具の下面に比較的短小のパイプ端部を突設し、そのパイプ端部の間に2組の上下一対の短パイプを付加的に設け、このパイプ端部と短パイプとに開口部を有する略四辺形の枠になるように開口部を嵌め込んで回動自在に係合させてなるものであった(別紙図面(3)参照)。(乙第8号証の1、2、乙第10号証の1、2)

(7)  タイヨー産業は、設立の際、野村喜代司から、静岡市西島1066番地、1067番地1に所在する鉄骨造スレート葺平家建倉庫1棟(床面積55坪)を借り受け、昭和50年8月29日付で不動産賃貸契約書を取り交わした。その後、タイヨー産業は、事務所を移転することにし、不動産業者の仲介で、興津順二から、静岡市中島2842番地の1所在の平家建工場1棟を借り受け、昭和51年3月8日付で不動産賃貸契約書を取り交わし、同年4月15日に新しい工場に移転した。(乙第2号証、乙第3号証の1、2、乙第5号証の1、2)

(8)  タイヨー産業は、設立の当初から、取引先が自由に出入りできる工場兼事務所において、下請業者から納品されてきた製品を検査したり、梱包したりしており、T-4型ふとん干し具は、工場に出入りする外部の者の目に触れる状態にあった。(甲第2号証、乙第25号証)

以上の諸事実が認められ、上記認定を左右するに足りる証拠はない。

2  上記認定の事実、特に、岩本の勤務する岩本プレス工業株式会社において、昭和47年から、T-4型ふとん干し具とほぼ同様の形状で枠体の個数が異なるのみのふとん干し具を製造販売し、引き続き、昭和50年8月の設立以来、タイヨー産業が、同様の製品(T-3型ふとん干し具)を製造販売していたこと、タイヨー産業の代表者である岩本は、遅くとも昭和50年12月6日の段階で、T-3型ふとん干し具の後続製品としてT-4型ふとん干し具を製造販売する構想を有していたこと、昭和51年4月21日付で、T-4型ふとん干し具を新製品として宣伝する「ふとん干し新製品発売案内」と題する書面を顧客に送付していることなどの事実を総合すると、タイヨー産業は、昭和51年4月21日までに、その工場において、前記認定の構造を有するT-4型ふとん干し具を製造し、その発明を公然実施していたものと認めるのが相当である。

3  原告らは、岩本は、当初から本件発明の構成要件を具備したふとん干し具を製作していたわけではなく、原告の当初の出願(昭和51年実用新案登録願62161号)の後にされた設計変更によって本件発明の構成要件を具備するに至ったものであって、T-4型ふとん干し具が本件発明の出願前に公然実施された事実はない旨主張する。

確かに、甲第3号証によれば、昭和54年3月29日発行の「ディノス」誌に掲載された折畳み式ふとん干し具が、上記T-4型ふとん干し具と、枠体がパイプ、すなわち、管材で構成されていない点で相違していることが認められる。

しかし、証拠(甲第24号証、甲第25号証、乙第25号証)及び弁論の全趣旨によれば、タイヨー産業は、ふとん干し具を仕入れて販売している卸売業者の要望で、一時的に、上記のようなふとん干し具を製造販売したに過ぎないこと、昭和55年以降は、「ディノス」誌に掲載されたタイヨー産業のふとん干し具は、いずれも枠体がパイプ製の本来のT-4型ふとん干し具であったことが認められる。

また、原告らは、審決がT-4型ふとん干し具を公然実施していたと認定する静岡市西島1066番地及び同市中島町2842番地の1には、実施を可能にするような工場はなく、公然実施できたか疑わしい旨主張するが、原告らの右主張を裏付けるような的確な証拠はなく、かえって、前記認定によれば、タイヨー産業が、上記工場で公然実施していたことは明らかというべきである。

他にT-4型ふとん干し具が本件発明の出願前に公然実施されたとの前記認定を左右するに足りる証拠は見当たらない。

したがって、上記原告らの主張は理由がない。

4  さらに、原告らは、証人岩本の証言、甲第15号証(乙第14号証の7)、甲第17号証の信用性について論難し、T-4型ふとん干し具が本件発明の出願前に公然実施されたという証明はない旨主張するので考察する。

原告らは、岩本が、T-4型ふとん干し具の製造に不可欠な図面の存在について曖昧な証言に終始しており、かつ、図面の提出を拒んでいたから、その証言は信用することができない旨主張するが、被告は、少なくとも連結器具の修正用の図面である乙第6号証(タイヨー産業作成。作成日付昭和51年3月27日)を提出しているうえ、岩本は、その証言において、当初の図面が見つからなかった、T-4型ふとん干し具はT-3型ふとん干し具の連結金具を修正しただけなので、連結器具の修正用の図面のみが残っていたと思われる旨供述しているのであって、曖昧な証言に終始しているとか、図面の提出を拒んでいたということは窺えず、他にその証言の信用性を疑わしめるような事情は見当たらない。

また、原告らは、甲第15号証(乙第14号証の7。タイヨー産業のふとん干し新製品発売案内)は、同社が工場を移転してわずか6日後である昭和51年4月21日付のもので、得意先への最重要事項である会社の住所変更に触れておらず、不自然であり、後日作成されたものと推測されるとし、また、甲第17号証(ふとん干しカタログ)についても、カタログ全体が多色刷りであるのに、N-3型、T-4型ふとん干し具は単色刷りとなっているなど不自然なところが多く、後日作成されたものと推測される旨主張するが、いずれも証拠に基づかない主張であって、原告らの憶測に過ぎないものといわざるをえない。

第4  よって、審決には原告ら主張の違法はなく、その取消しを求める原告らの本訴請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法7条、民事訴訟法61条、65条を適用して、主文のとおり判決する。

(口頭弁論終結日 平成10年8月27日)

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 山田知司 裁判官 宍戸充)

理由

【1】当事者の求めた審判

(1)請求人

結論と同旨の審決

(2)被請求人

「本件審判の請求は成り立たない。審判費用は請求人の負担とする。」との審決

【2】手続の経緯および本件特許発明の要旨

本件特許第1078116号(以下、「本件特許」という。)は、昭和51年5月14日に実用新案登録出願した実願昭51-62161号を特許法第46条第1項の規定により、昭和54年3月2日に特許出願(特願昭54-24735号)に変更したもので、昭和56年1月29日に出願公告(特公昭56-4275号)された後、昭和56年12月25日に設定の登録がなされたものであり、その後、本件特許発明明細書を訂正する審判請求(平成5年審判第22785号)がなされ、その訂正(平成6年11月24日請求公告、特許審判請求公告第798号参照。)を認容する審決が確定している(平成7年7月19日確定登録)。

本件特許発明の要旨は、訂正された明細書および図面の記載からみて、その特許請求の範囲の第1項に記載された次のとおりのものと認める。

「数本の管材を連結金具によって、少なくとも上下2個所において互いに連結して主柱を構成し、上側連結金具の上方及び下側連結金具の下方に比較的短小の心金を突設し、その心金に略C形の管材製枠体の端部を回動自在に嵌合して組立てるものにおいて、略C形の管材製枠体の端部間に形成される開口部長さを前記上側連結金具の上面から下側連結金具の下面に至る距離より狭小に形成してなる折畳みふとん干し具。」なお、訂正された明細書の特許請求の範囲の第1項には、「上側連結金具の上方及び下側連結金具の下方に比較的短少の心金を突設し、」の記載中に「短少」と記載されているが、その発明の詳細な説明に「比較的短小の心金」と記載されており(特許審判請求公告第798号の第2頁4欄1行参照)、この「短少」は「短小」の誤記と認められるから、本件特許発明の要旨を上記のとおり認定した。

【3】特許無効理由通知の概要

当審は、特許法第153条第1項の規定に基づく審理を行い、平成7年8月24日付けで同条第2項の規定に基づく特許無効理由を通知した。

その特許無効理由の概要は、

「本件特許発明は、本件特許発明に係る出願当時における技術常識を考慮に入れると、当業者がその出願前に公然実施をされた発明(引用発明;タイヨー産業株式会社のカタログに掲載された「T-4型ふとん干し具」)に基づいて容易に発明をすることができたものであるから、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第123条第1項第1号に該当し、これを無効とする。」

というものである。

【4】引用発明

ところで、本件特許発明に係る特許出願の分割出願として、別途特許出願(特願昭54-24736号;遡及出願日、昭和51年5月14日)がなされた。そして、この特許出願は、昭和60年2月9日に出願公告(特公昭60-5320号)された後、昭和60年10月31日に、特許第1287636号としてその特許の設定登録がなされた。

この特許第1287636号に対して、特許無効審判(平成5年審判第21515号、審判請求人;本件審判請求人に係る富田工業株式会社)が請求され、請求人の証人尋問の申出により、岩本康男証人の尋問が平成7年4月12日に特許庁審判廷で行われた。

そして、その結果によれば、以下に述べるように、「T-4型ふとん干し具」(以下、適時これを「引用発明」という。)は、少なくとも本件特許発明に係る特許出願前に、タイヨー産業株式会社の工場において、公然実施をされていたことが認められる。

(イ) 昭和51年3月下旬頃は、タイヨー産業株式会社の「旧工場」(静岡市西島1066番地)において、また、昭和51年4月15日(あるいは1日か2日後)以降は、同社の「新工場」(静岡市中島2842番地の1)において、不特定の者に公然知られる状況又は公然知られるおそれのある状況のもとに、「T-4型ふとん干し具」の完成品の展示がされるとともに、「T-4型ふとん干し具」の中央主柱部分を上下連結金具と長いパイプとで組立て、この中央主柱部分と枠の上下パイプ、縦パイプとが箱詰めされる作業が行われていたことが認められるから、「T-4型ふとん干し具」は、少なくとも本件特許発明に係る特許出願(昭和51年5月14日)前に公然実施をされていたこと、

(ロ) タイヨー産業株式会社の「ふとん干し具」のカタログ(甲第1号証;本件審判請求事件における乙第9号証と同じもの)に掲載された「T-4型ふとん干し具」は、

「2本の長いパイプを上連結金具と下連結金具とにより上下において互いに連結して主柱部分を構成し、上連結金具の上面及び下連結金具の下面に比較的短小の上下一対のパイプ端部を突設するものにおいて、前記パイプ端部を前記2本のパイプと同軸上に配された上下一対のパイプ端部と、それらの間に付加的に設けられた上下一対の短パイプとで構成し、このパイプ端部と短パイプとに開口部を有する略四辺形の枠になるように開口部を嵌め込んで回動自在に係合させてなる折畳み式のふとん干し具。」

であること、

という事実が認められる(平成5年審判第21515号審決および同審判における証人調書参照)。

したがって、「T-4型ふとん干し具」(引用発明)は、上記(ロ)に記載された構成からなるものであり、少なくとも本件特許発明に係る特許出願(昭和51年5月14日)前に公然実施をされていたことが認められる。

【5】対比

本件特許発明と引用発明とを対比すると、引用発明の「主柱部分」は本件特許発明の「主柱」に、同じく、「比較的短小の上下一対のパイプ端部」は「比較的短小の心金」に、パイプ端部に開口部を嵌め込むと略四辺形の枠になるような「開口部を有する枠」は「略C形の管材製枠体」にそれぞれ相当するから、両者は、「数本の管材を連結金具によって、少なくとも上下2個所において互いに連結して主柱を構成し、上側連結金具の上方及び下側連結金具の下方に比較的短小の心金を突設し、その心金に略C形の管材製枠体の端部を回動自在に嵌合して組立てる折畳みふとん干し具」の点で一致し、本件特許発明は、「略C形の管材製枠体の端部間に形成される開口部長さを前記上側連結金具の上面から下側連結金具の下面に至る距離より狭小に形成してなる」構成であるのに対して、引用発明は、開口部を有する枠の開口部の長さがどの位であるのか明確でない点で相違する。

【6】当審の判断

上記相違点について検討する。

本件特許発明の「略C形の管材製枠体の端部間に形成される開口部長さを前記上側連結金具の上面から下側連結金具の下面に至る距離より狭小に形成してなる」という構成は、「折り畳みふとん干し具」が組み立てられる前の「略C形の管材製枠体」の構造であるが、「略C形あるいは略コ字形の金属棒、パイプ等からなる枠体」(例えば、本件審判において請求人が甲第2~5号証として提出している、実開昭51-57835号公報、実公昭40-3718号公報、実公昭42-10399号公報、実公昭52-45453号公報等に示されている枠体。)を回動、揺動自在に他の部材(物体)に枢支受け具を介して外れないように取り付ける場合(例えば、上記実開昭51-57835号公報に示されている如く、枢支受具3、3’に嵌め込んで取り付ける場合)、枠体の開口部の長さを、その両側枢支受け具の外側端面間の間隔より短くすることは技術常識であり、その開口部をどの程度の長さとするかは、当業者が実施に際して枠体が動き易いか否か、外れ難いか否か、がたつきが有るか無いか等を考慮して適宜に採択し得る設計的事項である。

そうであれば、本件特許発明のように「略C形の管材製枠体の端部間に形成される開口部長さを上側連結金具の上面から下側連結金具の下面に至る距離より狭小に形成してなる」構成とすることは、当業者が容易になし得る設計的事項といえる。

そして、本件特許発明のかかる構成による効果について、その明細書(特許審判請求公告第798号の第2頁4欄11~15行参照。)に記載されているが、ここで、「とくに下側端部10の部分から管内への浸水が少ない」ということについてみると、本件特許発明には、「管材製枠体4の端部10と心金3との嵌合は第2図に示すように、上下共心金3の外径に比し端部10の内径を大径に構成する」(同公告の第2頁3欄24~26行参照。)という構成も含まれるのであるから、このような構成では浸水についての上記効果は期待し得ない。(なお、折り畳みふとん干し具の管材製枠体の下側端部の外径を、下側の心金より小径とすることは、上記した実開昭51-57835号公報にも示されている。)

そうすると、本件特許発明の効果は、当業者が予測し得る程度のものであって、格別のものとはいえない。

したがって、本件特許発明は、本件特許発明に係る出願当時における技術常識を考慮に入れると、当業者がその出願前に日本国内において公然実施をされた引用発明に基づいて容易に発明をすることができたものであり、本件特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものである。

なお、被請求人は、特許無効理由通知に対して、平成7年11月6日付けで意見書を提出し、婁々意見を述べるとともに証拠(乙第7乃至第15号証)を提出してしているが、意見書、証拠を検討しても結論を覆すに足りる理由があるとはいえない。

【7】むすび

以上のとおりであるから、本件特許発明の特許は、特許法第123条第1項の規定により無効とし、また、審判費用の負担について同法第169条第2項で準用する民事訴訟法第89条の規定を

別紙図面(1)

<省略>

別紙図面(2)

<省略>

別紙図面(3)

<省略>

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